
「自分の好きなことなら集中できるのに、勉強だと続かない。」
このような人は少なくありません。
しかし、このような人にも、ドーパミンが放出される回路が備わっており、機能しているのです。
では、なぜ仕事や勉強での集中が続かないのでしょう。
今回、神経伝達物質に注目し、集中力のメカニズムについて解説します。
集中力を高める神経伝達物質とは
好奇心が高まってくると脳内でドーパミンが分泌されます。
このドーパミンが前頭前野に働きかければ集中力が高まります。
また、海馬や片頭核に働きかければ学習効率がアップすることもわかっています。
つまり、好奇心を持って学んでいるとき集中力が自然と高まるのです。
当たり前のようにドーパミンという言葉を使いましたが、一度、集中力を高める神経伝達物質について簡単におさらいしておきます。
集中力を高める神経伝達物質は以下の通りです。
- ドーパミン
- ノルアドレナリン
- βエンドルフィン
この中で、ドーパミンとノルアドレナリンが集中力を高めるエネルギー源として働きます。
βエンドルフィンは、ドーパミンを分泌させやすい状態を保つ働きを示します。
ドーパミンやノルアドレナリンをエネルギー源にした集中力は、そう長く続きません。
そのため、集中力を長続きさせたいときβエンドルフィンの力が重要になります。
ノルアドレナリンは、ストレスが強い状況に立ち向かい逃げ切るために分泌される物質で、行動を促進するエネルギー物質として働きます。

ベストな神経伝達物質のバランス
人が何か行動するとき、ドーパミンかノルアドレナリンが作用しています。
その分泌バランスは、以下のパターンが考えられます。
ドーパミンが少なく、ノルアドレナリンが多い
ノルアドレナリンが多いとき、同時にコルチゾールというストレスホルモンも分泌されやすくなります。
集中力を一時的に高くしますが、ストレスホルモンのせいで長続きしません。
ストレスやプレッシャーを感じているときはこの状態に陥っています。
ドーパミンが多く、ノルアドレナリンが少ない
興味、好奇心を持っているときドーパミンが多く分泌され、集中力を発揮することができます。
大好きな物事に没頭しているとき、ドーパミンだけでなく、βエンドルフィンも分泌されているので集中力を保つことができます。
しかし、新たに学んだり、取り組んだりするときは、困難がつきまとうものです。
その困難にぶつかったときドーパミンによる集中力は途切れやすくなってしまいます。
ドーパミン、ノルアドレナリンが適量
集中力が最も高く、長続きする理想的な状態です。
ドーパミンとノルアドレナリンがバランスよく分泌され、βエンドルフィンも働きます。
行動のきっかけが好奇心や興味、自分がワクワクすることであれば高い集中力がもたらされます。
また、ウキウキした状態は脳がその状況を求めているので、βエンドルフィンも働きます。
大きな夢や長期的な目標を実現するためにはこの状況が必要不可欠です。

なぜ仕事や勉強で集中できないのか?
なぜ、仕事や勉強になると、集中力が長続きしないのでしょうか。
これは、ドーパミンが出ている瞬間に意識を向けてきた経験の少なさからくるものです。
日本の教育は、生徒の脳が反応した興味や好奇心を優先せず、目の前の授業を頑張るように努めています。
そのため、ドーパミンの働きを活かした集中力の使い方に慣れることができないというわけです。
最も大切なのは、自分自身の興味、楽しみ、喜び、不思議なことに触れた驚きに目を向けることです。
この神経回路を使っていない人は、大きな夢や目標を持ったとしてもドーパミンを出し続けることが難しいでしょう。
ドーパミンの効果を引き出しやすい人は普段から自分の好奇心に目を向けています。
専門的なお話
脳にはドーパミンを放出する中脳腹側被蓋野の働きを抑制する側坐核という部分があります。
これは、高揚感が高まりすぎるのを抑えるために働きます。
集中力を高めるとき、ドーパミンの放出が維持されているのが好ましいですよね。
側坐核の働きを弱めたい、そのためにβエンドルフィンが役立ちます。
分泌されたβエンドルフィンが側坐核の働きを抑制し、ドーパミンが放出されやすい状態を維持してくれるのです。
βエンドルフィンを活性化させるには?
βエンドルフィンを活性化させるためには、物事を楽しむ能力が重要になります。
楽しみ方の経験値が高い人ほど、βエンドルフィンの働きが優れるということです。
物事を楽しむ脳力は誰しもが持っています。
しかし、日々の生活に追われていると、この能力に蓋をしてしまうものです。
その結果、仕事や勉強の集中力が続かなくなることにも繋がります。
楽しむ能力、楽しめる能力を仕事や勉強にも活用することで、高い集中状態を持続させることが可能になるわけです。
また、追われている感覚を減らすためには、意識して遊ぶ時間を作る必要があります。
今、楽しいと思える感覚を大切にしましょう。
ネガティビティバイアス
本能的に従って働く自然な注意力は、基本的に危険を晒すような情報に向きやすいです。
このことをネガティビティバイアスと呼びます。
ネガティビティバイアスに支配されると、自然と自己肯定感が下がってしまいます。
私たちは意識的に物事のポジティブな面に注意を向けなければ自然とネガティブな出来事に囚われやすいということを認識しておきましょう。

ネガティビティバイアスを避ける
いきなり自分の良い所に目を向けてと言われても無理があるでしょう。
まずは日常生活の中でポジティブな感情が芽生えた瞬間に注意を向けるようにします。
意識して注意を向けるものが注意力に影響を与え、考え方や行動が変化するのです。
この仕組みを理解するために脳神経学から見た情報処理について簡単にまとめます。

記憶と情報処理
外からの情報は視覚、聴覚、嗅覚、触覚などのフィルタを通して入ります。
しかし、全てを感知できるわけではありません。
私たちの脳が自然と感知するのはフィルタを通して入ってくる情報の1000分の1程度です。
一方、感知した情報に反応するときは、その人の持っている記憶が振る舞いに強く影響を与えます。
人の記憶により、脳が変化し情報への反応、行動も変わっていることがわかっているのです。
ここが集中力を操る鍵になります。
注意を向け、記憶に残る出来事を自分で選択し、脳の構造変化を繰り返すことで集中力を高めていくことが容易になるのです。
集中を幸せな状態で維持する
集中力を幸せな状態で維持するためには、自分の願望に耳を傾けることが大切です。
願望=欲望ではありません。
まずは、自分が心から望むこと、それを見つけることが大切です。
日々の好奇心を大切にし、様々な体験をし、新しい情報を日常に取り入れてましょう。
自分にとっての新たな視点に気づける人は、身の回りの幸せに気づける人です。
自分の想いをもとにした行動は、願望を叶えるための機会や情報に出会える確率を高めてくれます。
この、ポジティブな循環こそ最も質の高い集中力をもたらすというわけです。
参考文献
(1)Beaty, R. E., Benedek, M., Silvia, P. J., & Schacter, D. L. (2015). Creative cognition and brain network dynamics. Trends in Cognitive Sciences, 20(2), 87-95.
(2)Sprouse-Blum, A. S., Smith, G., Sugai, D., & Parsa, F. D. (2010). Understanding endorphins and their importance in pain management. Hawaii Medical Journal (1962), 69(3), 70-71.
コメント